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慶應義塾大学先端生命科学研究所 からだ館

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ともに考えよう地域医療みらい図 ~自分のために 未来のために~

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院長リレーインタビュー 第四回


医療法人なごみ会
産婦人科 小児科

三井病院
院長 三井卓弥さん 

 からだ館通信60号から始めた「ともに考えよう地域医療みらい図院長リレーインタビュー」では、私たちが暮らす庄内地域の医療の現状について、学んでいます。院長インタビュー第一回は日本海総合病院の島貫隆夫院長に、第二回は鶴岡協立病院の堀内隆三院長に、第三回は鶴岡市立荘内病院院長の鈴木聡院長に、それぞれの院長の視点から見た地域医療の現状や目指す姿についてお話をうかがってきました。四回目の今回は、医療法人なごみ会 産婦人科 小児科三井病院の三井卓弥院長に伺いました。



Q. 病院が大切にしてきたことを教えてください

(三井)三井病院は昭和24年に私の祖父が開設し今年で72年になります。以来、地域の産婦人科病院として妊婦さんが安心してお産できるよう、取り組んできました。

「医療はサービス業である」

(三井)これは二代目院長である父の言葉で、三井病院として一番大切にしてきたことです。三代目の私がこの病院に来た20年前は、鶴岡市内にお産の開業医が5つもありました。そのため、より患者さんに選んでいただけるよう、医療環境の充実を目指してきました。お食事にもこだわり、旬の食材を心を込めて手作りしています。行事食や季節に合わせたメニューも取り入れ、退院後の参考になるよう提供しています。



またヨガ教室、マタニティクラス等を開催、妊婦さんが安全かつ快適に妊娠・出産できるようお手伝いしてきました。

Q. 地域医療で課題と感じることは何ですか

(三井)大きくは2点あります。ひとつは少子化問題です。昨年度、日本の出生数が100万人をきり87万人で過去最少を更新しました。地域でも同様に大きな課題です。又、若者の意識も変化しています。恋人ができ結婚し出産という流れを望まない人が増えています。子供を必要としない考え方、社会的な性別役割に関する議論等、色々ありますが、このままでは少子化に歯止めがかかりません。どうしたらいいのか、難しい問題です。

深刻な医師不足

鶴岡市でお産のできる病院は、荘内病院、鶴岡協立病院、三井病院の3病院しかありません。そのうち、三井病院と鶴岡協立病院は産婦人科医が1人です。荘内病院の産婦人科医は4人ですが、産科だけではなく婦人科も対応しています。夜に複数のお産をしてそのまま昼に婦人科の手術、という時もあり体力的にもかなり厳しいと伺っております。そのため誰か一人でも医師が欠けると大変な状況になる危機感を絶えず抱いています。また私はがん検診も担当しているので、がんや良性の病気の治療を考えたとき、十分な医療資源があるかと疑問に思います。

今は医師の頑張りが頼り

(三井)そこで、常になんとか産科医を増やしたいと考えています。増えるのは三井病院でなくても他の病院でもいいのです。しかし難しい現状です。長時間連続勤務や医師一人にかかる負担が大きく生活の質を保つことが困難だからです。現在はそれぞれの医療機関の医師の頑張りだけで成り立っている状況です。私も目の前のことに精いっぱいで未来を考えることができないほどです。

Q. 地域の周産期医療を維持するためおこなっていることはありますか

(三井)昨年、荘内病院、鶴岡協立病院、三井病院が「南庄内の周産期・小児医療を考える会」を立ち上げました。そこでは産科医不足の現状から、連携の在り方を模索しており、3病院の機能の集約化が議題に上っています。集約とは、それぞれの病院が機能の分散を考え、病院の強みを生かし一つになることです。確かにこのままですと、周産期医療の崩壊につながるため、協力が必要です。しかし、妊婦さんのニーズに合わせた開業医ならではの細やかな「サービス」も必要で、実際酒田市など遠方の妊婦さんも三井病院に通院・出産されています。集約して妊婦さんが満足できるお産ができればいいのですが。公立病院の中で、産婦人科だけサービスします、とはできないと思います。そのため、妊婦さんのニーズを考えると、単純に集約化は、難しいと考えています。今後も継続的な話合いが必要です。

適切な支援につながる連携

(三井)現在は、安心して医療を提供するために、お産のリスクが大きい場合、荘内病院や他の総合病院と早期の段階から、情報の共有をしています。通常のお産でも、突然異常が起きる場合もあり、情報共有は必須です。


2月25日、オンラインと対面のハイブリッド方式でインタビュー。聞き手はオンラインにて秋山美紀1) 、 三井病院にて、左手より齊藤彩1) 、瀬尾利加子2 )。1)慶應義塾大学からだ館  2)(株)瀬尾医療連携事務所


(三井)また近年、不妊治療を受けられてきた方、高齢妊娠、出産の方も増えています。合併症を患ったりメンタルで不安を抱える方も多く、パニック症状など産後の鬱につながることも想定されます。このように支援が必要な妊婦が増え、私たちだけで解決できないことがたくさんあります。そのため、病院、かかりつけ医、保健師さんともコミュニケーションをとり、必要な人に適切に支援できるよう連携をとることが大事だと考えています。

Q. お休みが取りづらい状況と聞いております

(三井)一緒に働いていた父が病気になり一人勤務となってから、ほぼ出かけられない状況です。たまに、家族で近くに出かけて早々に呼び出されたりするため、子供が小さい頃は泣かれたこともありました。今は父親の不在を当たり前と感じてくれているようです。私としては家族に申し訳ない思いですが、同時に私の状況を理解してもらい、有難いとも思っています。今世の中は、コロナ自粛で外出が制限されていますが、私は、ずっと出かけられない状況に変わりないのです。それでも、出産という特別な場面に立ち会え、妊婦さんに感謝されることも多いため、今の多忙な生活を続けていられます。
夜中にお産が終わって、妊婦さんが「先生はいつ寝てるの?」と気遣ってくれることもあります。こんな言葉をいただけるだけで十分なんですよ。

Q. 子育てしやすい地域に必要だと考えていることはありますか?

(三井)この地域には、元気なシニアがたくさんいらっしゃるので、子育て家庭との連携が取れるといいと思います。鶴岡でも一時期シニア層が、子供を預かることをやっていて、私の子供もお世話になったことがあるのですが、大変助かりました。急な出来事や細かいニーズに対応してもらえると助かるご家庭は多いと思います。地域をあげて子育てをしていければいいですね。


三井卓弥先生ありがとうございました。次回もどうぞお楽しみに。


<聞き手のプロフィール>

齊藤 彩
からだ館スタッフ 社会福祉士
院長インタビューを通じて地域医療体制の情報を発信し、ここで暮らす皆で医療のことを考えていきたいと考えている。

瀬尾 利加子
(株)瀬尾医療連携事務所 鶴岡市地域医療を考える委員会委員長
2015年まで鶴岡市内の病院に勤務後、 高齢社会から起こる医療課題の解決策に取り組むため起業。みどりまち文庫を運営。 

秋山 美紀
からだ館リーダー 慶應義塾大学教授
鶴岡市地域医療を考える市民委員会コーディネーター
中央社会保険医療協議会公益委員
15年にわたり庄内地域の医療をウォッチする傍ら、国の医療政策にも関わる。



からだ館通信第63号(2021年6月30日号)掲載