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慶應義塾大学先端生命科学研究所 からだ館

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ともに考えよう地域医療みらい図 ~自分のために 未来のために~

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院長リレーインタビュー 第三回


2019年
鶴岡市立荘内病院院長就任

鶴岡市立荘内病院
院長 鈴木聡さん 

 からだ館通信60号から始めた「ともに考えよう地域医療みらい図院長リレーインタビュー」では、私たちが暮らす庄内地域の医療の現状について、学んでいます。院長インタビュー第一回は日本海総合病院の島貫隆夫院長に、第二回は鶴岡協立病院の堀内隆三院長に、それぞれの院長の視点から見た地域医療の現状や目指す姿についてお話をうかがいました。三回目の今回は、鶴岡市立荘内病院の鈴木聡院長に伺いました。



Q. 荘内病院の役割を教えてください

(鈴木)荘内病院は南庄内地域の急性期病院です。地域全体を診る基幹病院として地域に根差した医療を提供する病院です。急性期ですので手術、がん治療を中心やっています。さらに急を要する治療、心筋梗塞、心不全、呼吸器疾患なども庄内地域の医療機関の中で中心的な役割を果たしています。また、庄内地域で唯一の、地域周産期母子医療センター(※1)、新生児集中治療室(NICU)を完備し、安心安全なお産の実現を目指しています。荘内病院には、NICUのベッドが6床、集中ケアを脱した児の回復治療室(GCU)のベッドが6床あります。24時間小児科医が常勤し、いち早く赤ちゃんの状態に対応しています。

Q. 医師不足と言われていますが現状はいかがですか

(鈴木)荘内病院の令和2年4月1日時点の医師数は72名です。全国の500床以上の公立、公的病院の平均医師数に対して20名程度少ない厳しい現状です。そのため、日本海総合病院、山形大学、鶴岡地区医師会に医師の派遣をお願いしてます。
ただ、昨年は医師が不在だった呼吸器科に、今年度から一人専門医が加わりました。そうした良いことも広報していきたいと考えています。

危機感を共有し、機能の集約へ

(鈴木)医師不足は地域全体として深刻で、小児科、産科も減っています。先日、鶴岡協立病院と、三井病院、荘内病院で「南庄内の周産期・小児医療を考える会」を立ち上げました。現在、この地域で分娩を行っているのは上記の三病院だけです。このうち三井病院、鶴岡協立病院は産科医が一人で大変過酷な状況です。荘内病院の医師数は三名ですが、産科ばかりではなく婦人科腫瘍にも対応しているため足りない状況です。そこで、集約化を考えて話し合いを始めたところです。ただ単に一つになるのではなく、それぞれの病院の強みを生かし、機能の分散と集約を考え対応することが大切で、今後もさらに連携が必要だと考えています。本来、荘内病院は急性期の医療を提供する役割を担っています。しかし今後は亜急性期(※2)の患者さんも増えていくことから、その対応もしなければなりません。手術後の患者さんを診る他の病院、慢性期病院との連携も必要です。地域に必要な機能を維持するために、病院同士危機感を共有していかなければならないと考えています。


9月25日、鶴岡タウンキャンパスにて、左から齊藤彩、瀬尾利加子

Q. 地域医療を持続させるため私たち住民にできることはありますか

(鈴木)病院を受診する場合、紹介状が必要な仕組をご理解いただきたいです。すべての診療科に十分なマンパワーがあるわけではないのです。決して住民の皆さんに意地悪しているのではありませんよ。通常、医師は午前中、外来診療をします。外来に時間が掛かり過ぎると、午後の手術や検査に差しさわりがある場合もでてきます。医師が時間的に余裕をもって診療させていただくために、「何となく調子が悪いから病院に行く」のではなく、まずはかかりつけ医を受診してもらいたいのです。かかりつけ医の役割を理解していただくことが、地域医療を守っていくために大変重要なことと考えています。

Q. この10年、20年の地域や医療の変化を荘内病院ではどう感じていますか

(鈴木)約30年前に私が来た当時の荘内病院は、古いけれど医師も今よりずっと多く、何でもできる基幹病院として、良い医療を提供しているという自負がありました。
2008年より、この地域では緩和ケアを地域全体に広げていくための「庄内プロジェクト」が始まりました。そこで地域住民に調査をして、結果に愕然としました。病院に対して信頼、安心感を感じている患者さんがあまり多くなかった、むしろ批判的な気持ちを持っていたことが明らかになりました。この結果を謙虚に受け止め、そこから「なんとかしなければならない」と、医療者の意識が変わったと思います。庄内プロジェクトをきっかけに、地域全体で連携が良くなり、医療者の困難感も少なくなり、患者さんが安心して退院できるようになったと感じています。当院でも手術をするだけでなく、患者さんが自宅に帰った後の生活やその人全体を診る視点を持つ医療者が増えたと思います。 

医療者も住民も変化している

また住民にも変化を感じています。以前は庄内人はおとなしいと感じていましたが、今は違います。地域の皆さんが医師や研修医と語り合う「車座トーク」では、皆さんが堂々と病院について要望や意見を言う姿に驚かされます。問題解決のために一丸となれる人たちだと思います。ありがたいですね。


インタビュアーの一人、秋山美紀はオンラインで参加しました。

患者に真心を届け、地域に愛される病院でありたい

(鈴木)医療者は人として基本的なところを身に着ける必要があります。患者ファーストは当たり前で、患者さんへ真心を届けなければなりません。
さらに職員や病院に関わる方々にも気持ちよく働いてもらいたい。それがなければ患者さんへ良い医療を提供できません。自分の組織を誇り、家族にも自慢できるような病院でなければ地域医療は良くなりません。
荘内病院は公立病院です、市民に見放されたらおしまいです。市民の要望をお聞きし、市民目線で一緒に病院を作っていきたいと考えています。これからも地域の病院として頑張っていきます。
最後に、コロナ第二波については、病院だけなく鶴岡市、鶴岡地区医師会その他、様々な機関と連携し対策をしています。第一波の反省も含め知恵を出し合い対応していきます。患者さんには少しご不便をおかけしますが、引き続きご協力をよろしくお願いします。




鈴木聡先生ありがとうございました!

<聞き手のプロフィール>

齊藤 彩(中央下)
からだ館スタッフ 社会福祉士
院長インタビューを通じて地域医療体制の情報を発信し、ここで暮らす皆で医療のことを考えていきたいと考えている。

瀬尾 利加子(右)
(株)瀬尾医療連携事務所 鶴岡市地域医療を考える委員会委員長
2015年まで鶴岡市内の病院に勤務後、 高齢社会から起こる医療課題の解決策に取り組むため起業。みどりまち文庫を運営。 

秋山 美紀(中央上の画面内)
からだ館リーダー 慶應義塾大学教授
鶴岡市地域医療を考える市民委員会コーディネーター
中央社会保険医療協議会公益委員
15年にわたり庄内地域の医療をウォッチする傍ら、国の医療政策にも関わる。



国立がん研究センター東病院と連携し「がん相談外来」

荘内病院と国立がん研究センター東病院は今年、地域医療の貢献を目的とした連携協定を締結し、いよいよ11月より毎月「がん相談外来」が開設されます。鈴木院長に概要をご案内いただきました。


 荘内病院に通院している患者さんが、がんの治療や副作用についての不安等を「国立がん研究センター東病院」の医師と直接会って相談できる外来です。院内のセカンドオピニオンの役割で、費用は再診料のみとなります。
 受診を希望する場合は、荘内病院の主治医か、看護師に伝えてください。但し、がん相談外来を受診できるのは、荘内病院の医師が担当しているがん患者さんとそのご家族です。ご家族みなさんで相談内容を共有していただきます。
 受診後、主治医と患者さんで再度治療方針について検討することになります。がん相談外来を受診しても主治医との良好な関係は変わりないので心配はいりません。 将来的には遠隔診療システムを使ったセカンドオピニオンなど、患者さんへ負担の少ない、医療を提供していきたいと考えています。 さらに医師や看護師など医療スタッフの人事交流を積極的に行い、診療のレベルアップを図っていきます。この連携によってより良い地域医療への貢献ができればと考えています。

 

からだ館通信第62号(2020年10月30日号)掲載