ともに考えよう地域医療みらい図 ~自分のために 未来のために~
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院長リレーインタビュー 第二回
2000年
鶴岡協立病院 院長就任
鶴岡協立病院
院長 堀内 隆三さん
前回から始まった「ともに考えよう地域医療みらい図 院長リレーインタビュー」では私たちが暮らす地域の医療の現状について学んでいきます。
毎回、地域の各病院の院長より病院の紹介、地域医療の在り方等についてお話を伺います。
今回は鶴岡協立病院、堀内隆三院長にお聞きしました。
Q. 鶴岡協立病院の役割を教えてください
(堀内)急性期医療(※1)に特化する病院ではなく、高齢者を中心として急性期から慢性期まで全体を診ています。
医療生協やまがたには、鶴岡協立病院と鶴岡リハビリ病院、クリニック、そして介護施設があります。全体として保健予防活動からリハビリ、医療介護を提供するのが私たち医療生協です。
地域包括ケアの拠点として
Q. 「高度急性期」ということは荘内病院より高度な医療ということですか?
(堀内)例えば地域に暮らす高齢者が病気になって、私たちの病院を訪れたとします。病状によっては、荘内病院に紹介し、そこで高度急性期医療を受けていただくこともあります。多くは、私たちの病院で急性期治療を終え、その後、ご自宅等に戻り、通所リハビリ、通所介護のサービス等を利用しながら、在宅で過ごす。この一連の地域包括ケアシステム(※2)をまとめる拠点が鶴岡協立病院の立ち位置です。
また、私たちの役割は社会的弱者にとって最後の砦となる医療機関であることで、無料定額診療にも取り組んでいます。差額ベッド代金もとりません。もっといい部屋にしてほしいといわれても特別な部屋はありませんが、個室であろうが大部屋であろうが同じです。
支えあいの精神が我々の魂
(堀内)ここは、医療生協という組織でみんなが出資して建てた病院です。会員は4万人おります。支部があって班ごとに活動しています。そこには組合員さん同士が話をしたり、運動をしたりする居場所づくり活動も行っています。
組合員さんのなかには自発的に気になる人を連れ出して世話をしてくれる人もいます。支えあいの精神がそこにあるのです。それが我々の魂です。支えあいの精神の上に医療があると思っています。そこが私たちの病院としての特色であり、強みです。
Q. 庄内の地域医療で課題と感じていることは何ですか?
(堀内)この地域の看護師と医師の不足です。病院の医師の確保も考えていきますが、深刻なのは看護師不足です。
鶴岡協立病院でも昨年からどうしても看護師が集まらず今年はベット数を33床減らしました。以前は230床あったベッド数は今では140床です。どんどん規模を縮小しても、それを維持するのが難しくなっている現状です。また看護師不足が直接の原因ではありませんが、地域には「病院」をやめて「クリニック」に移行した医療機関もあります。そのため、慢性期の患者さんが入院できるベッド数はさらに減少しています。高齢者の多いこの地域にとって本当に深刻な問題です。
実は山形県の看護師の養成数は全国でもダントツに低いです。
庄内地域には酒田市立酒田看護専門学校、鶴岡市立荘内看護専門学校がありますが、残念ながら定員割れを起こしている状態です。さらに医師会立の准看護学校も3年後の閉鎖が検討されています。教育の問題も併せて考えていかないといけません
Q. 庄内の将来のため考えていることがありましたら教えてください
(堀内)地域に看護大学を作ることが私の願いです。
庄内地域には、より専門性の高い大学、看護大学を求めて、他県や内陸へ進学している優秀な学生も多いです。そこで地域に看護の大学を作りその学生を庄内地域で養成できないかと考えています。
良い看護大学があれば、周辺の地域や隣県からも高度な看護を学ぶため、学生が庄内に通学するかもしれません。
人口減少、出生率も減っている現状では大学の設立は難しいことは十分認識しています。しかし何も手を打たなければ庄内の医療はどうなるのか。医療と教育はセットです。どちらもなくなったらその地域は立ち行かなくなってしまいます。
なんとしてもチャレンジしたいです。
地域で支えあう医療体制に
(堀内)もうひとつは、地域の医療体制をそれぞれの役割・ポジショニングを鮮明にし、地域全体で支え合うシステムをつくっていきたいと考えています。私たちの病院の果たすべき役割は、地域包括ケアです。これに専念することで地域に貢献できればと考えています。
実は、神戸と庄内が、生協組織の発祥の地です。 学校給食も鶴岡が発端の地です。
庄内は伝統的に支えあいの精神、感動するべき歴史がある地域です。
地域で支えあいを大事にして他の病院と連携していくことで素晴らしい地域医療ができると考えています。
インタビューは2020年6月30日に行いました。
<聞き手のプロフィール>
齊藤 彩
からだ館スタッフ 社会福祉士
院長インタビューを通じて地域医療体制の情報を発信し、ここで暮らす皆で医療のことを考えていきたいと考えている。
瀬尾 利加子
(株)瀬尾医療連携事務所 鶴岡市地域医療を考える委員会委員長
2015年まで鶴岡市内の病院に勤務後、 高齢社会から起こる医療課題の解決策に取り組むため起業。みどりまち文庫を運営。
秋山 美紀
からだ館リーダー 慶應義塾大学教授
鶴岡市地域医療を考える市民委員会コーディネーター
中央社会保険医療協議会公益委員
15年にわたり庄内地域の医療をウォッチする傍ら、国の医療政策にも関わる。
堀内院長のプロフィール
堀内先生の故郷 長野県青木村の風景
私は長野県出身で、実家は父が中学の教師、母が農家をしていました。
3人兄弟の末っ子です。
私が医師を目指したきっかけは2つあります。一つは姉が医療系の大学に進んだこと。もう一つは長野県で地域医療の先駆者として活動されていた故若月俊一先生に感銘を受けたことです。自分も無医村の医師になりたいと思いました。
大学は山形大学医学部です。卒業後は若月先生のいる佐久総合病院に行くか山形に残るか悩みました。しかしより医療体制が整っていない山形で医療をしていくことに決めました。ちょうどその頃、地域住民がお金を出してつくる協立病院のことを知りました。そこでこの病院を大きくしたいと考え入局したのです。
コロナ禍から 本当の幸福を問い直す
私は、このコロナ禍を境に、人間の幸福感が変わっていくことを望んでいます。今までの幸福感はお金に支配された価値観が中心でしたよね。他との比較の中に幸福を探していた。しかしそうじゃなくて。人々が他人との支えあいの中に幸福を感じるよう価値観を転換してほしいと考えています。 都会崇拝ではなく、地方に目を向けること。地方にいても仕事はできるのがわかってきましたよね。もう一度、地方に社会を形成し、幸せづくりをみんながやっていければいいのではないでしょうか
<あとがき>
インタビュアーの秋山さんは、東京からオンラインで参加しました。
堀内隆三先生ありがとうございました。
次回もどうぞお楽しみに
からだ館通信第61号(2020年8月31日号)掲載