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慶應義塾大学先端生命科学研究所 からだ館

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ともに考えよう地域医療みらい図 ~自分のために 未来のために~

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院長リレーインタビュー 第一回


2016年より
山形県・酒田市病院機構
日本海総合病院 院長 就任

日本海総合病院
院長 島貫 隆夫 さん

 コロナ禍の報道から日々最前線で奮闘する医療従事者のみなさんへ、感謝の念に堪えません。一方で自分たちが暮らす地域の医療の脆弱さを知り不安な思いを抱えた方もいらしたのではないでしょうか。さらに従来から問題視されてきた、人口減少や医師偏在、財政問題など深刻化しています。
 そこで今回から始まる新企画「ともに考えよう地域医療みらい図」では庄内地域の各病院の院長より地域医療の在り方等についてお話を伺い病院や地域医療の実情について学んでいきます。初回は日本海総合病院の島貫隆夫院長にお話をお聞きしました。



Q. 日本海総合病院の役割を教えてください。

(島貫)私たちの病院は、庄内全域の患者さんの三次救急(生命に危険が及ぶような重症・重篤患者に対応する救急医療)を担っています。又、心筋梗塞(しんきんこうそく)、大動脈解離(だいどうみゃくかいり)といった命に係わる病気の治療など「高度急性期」と言われる医療を提供しています。南庄内の急性期病院である荘内病院とは役割を分担しながらしっかり連携しています。

高度な医療を提供するために

Q. 「高度急性期」ということは荘内病院より高度な医療ということですか?

(島貫)「高度」といってもそれはどっちが上とか下とかいう意味ではなく、機能や役割を分担しているということです。例えば脳外科の手術については荘内病院が充実していて件数も多いですし、南庄内の救急医療の大部分は荘内病院が担っています。 そのため、どちらかが倒れたら両方が倒れるという関係なのです。その関係は荘内病院だけでなく地域の病院、診療所なども同じです。それぞれの特色を生かして、連携していきたい、そうする必要があると考えています。

Q. 庄内地域すべての医療機関で役割分担する必要があるのですね。

(島貫)はい。日本海病院の外来患者は一日平均1450人、多い時だと1600人も来ています。実はあまり外来の患者さんが多いと本来の目的である高度な手術やカテーテル検査などに支障をきたすこともあります。この病院の本来の役割が果たせなくなってしまうのです。外来患者さんが多いと待ち時間が長くなってしまうのも問題です。

Q. だから軽傷の方や治療を終えた人は他の医療機関に行ってもらうことが、日本海病院が高度急性期の医療を提供し続けるために大切なんですね。

(島貫)患者さんの声として日本海病院での治療が終わり他の病院を紹介されると「見放された」と感じることもあるようですが、決してそうではありません。機能を分担してしっかり連携していくのです。そのため私たちは今「二人主治医体制」に力を入れています。 「二人主治医体制」とは、日本海病院の医師とかかりつけ医と両方が主治医としてしっかりと診ていく体制を言います。例えば、年に1回は日本海病院で、通常の診察は診療所で、両方が診ることによって質の高い医療が実現できると考えています。そこを是非ご理解いただきたいですね。

Q. 二人主治医体制を患者さんが安心な仕組みだと感じるためには、医療者同士の情報共有が大事になりますね。

(島貫)医療連携のための情報ネットワークにはずっと力を入れてきました。庄内には「ちょうかいネット」という地域で安全に医療情報を共有できる仕組みがあります。日本海病院の患者さんの電子カルテの情報は、庄内で連携をしているどこの医療機関でも必要な時に見ることができます。

Q. 庄内の地域医療で、今もっとも課題に感じていることは何ですか?

(島貫)人口の大幅減少に対応して、先手を打つことでしょう。2040年には庄内地域の人口は18万~19万になります。今から12年前の2008年に酒田市立病院と県立日本海病院が統合したことを不満に思った市民もいたようですが、統合して資源を集中させることにより、高度急性期の医療機関として、医師や看護師が集まる環境になりました。2つの病院のままでは、生き残ることはできなかったでしょう。人口規模に合わせて、その時から300床を削減しましたが、それでも現在の病床の稼働率は8割を切っています。もっと病床を減らしていかないと、経営が成り立たないという厳しい局面になっています。

患者さんと信頼を深めるために

Q. 患者さんや住民と信頼関係を築くため、どんな工夫をしてますか?

(島貫)信頼のためには納得できるよう説明に十分な時間をかけることが大事で、そこを医師だけでなく多職種で対応したいと考えました。そこで新たに「入退院支援センター」を作り、今年2月に稼働を始めました。患者さんの入院前から退院後まで、病院が関わりを持つことで、スムーズに切れ目なく治療やケアが継続すること、そして時間をかけて説明をすることで理解が深まるようにすることが目的です。入退院支援センターは、地域連携室のさらなる強化であり、地域の医療や介護との橋渡し役になると考えています。ほかにも、がん患者の就労支援のためにハローワークが週一回、病院に来て相談を受けることになったんですよ。今後も色々考えてやっていきます。

1+1を、3や10に 「オール庄内」でいきたい

Q. 庄内地域の将来のために、考えていることがありましたら教えてください。

(島貫)庄内は一つの共同体です。北と南と1+1は2じゃなく、3や10にもしていきたい。医療だけでなく、まちづくり、教育、農業、交通インフラ、ここはみんなは力をあわせていくところですね。  僕の妄想は、酒田と鶴岡を結ぶLRT(次世代型路面電車)を走らせること。そして病院はちょうど真ん中にあたる空港のそばに移転させる。そうすれば、鶴岡からも酒田からも、お年寄りも車を運転しなくても行き来できるでしょ。山居倉庫や土門拳記念館、鶴岡公園や、スイデンテラスの前も通るようにして・・・。
 僕は置賜出身ですが、鶴岡も酒田も魅力的な地域であり両方楽しんでいます。環境もいいし食事はおいしいし歴史や文化の街を残していきたい。お酒もおいしいよね。そうそう、新しくワイナリーもできるのも楽しみだね。庄内は一つ、「オール庄内」で行きたいですね。




インタビューは2020年3月17日に行いました。

聞き手は、左手より、齊藤彩1)、瀬尾利加子2)、秋山美紀1)
1) 慶應義塾大学からだ館 2)(株)瀬尾医療連携事務所
日本海総合病院にて。


<聞き手のプロフィール>


齊藤 彩
からだ館スタッフ 社会福祉士
院長インタビューを通じて地域医療体制の情報を発信し、ここで暮らす皆で医療のことを考えていきたいと考えている。

瀬尾 利加子
(株)瀬尾医療連携事務所 鶴岡市地域医療を考える委員会委員長
2015年まで鶴岡市内の病院に勤務後、 高齢社会から起こる医療課題の解決策に取り組むため起業。みどりまち文庫を運営。 

秋山 美紀
からだ館リーダー 慶應義塾大学教授
鶴岡市地域医療を考える市民委員会コーディネーター
中央社会保険医療協議会公益委員
15年にわたり庄内地域の医療をウォッチする傍ら、国の医療政策にも関わる。



コロナ経験後に考えること

インタビューを受けていただいた直後に、コロナ禍により医療を取り巻く環境が変化しました。そこで島貫先生に再度メッセージをいただきました。

コロナにより庄内地域の医療体制について新たに気づいたことは?

 当院は第二種感染症指定医療機関であり、当初から庄内保健所と連絡をとりながら新型コロナに対応してきました。以前から庄内地域は医療連携が進んだ地域ですが、今回の新型コロウィルス感染症対応ではその連携体制が良く機能したのではないでしょうか。庄内保健所、鶴岡・酒田地区医師会のリーダーシップのもと、庄内地域での円滑な連携・協力体制が構築できたことは極めて大事なことです。広域にわたる感染症では庄内全域での取り組みが肝要であり、この経験は必ずや将来の地域医療構想に活かされるものと確信しています。

それを踏まえてやるべきことは?

 今後、やって来るであろう第二波に備え、新型コロナの検査体制の確立とその充実、庄内地域での感染情報共有体制の構築が不可欠です。庄内では、感染が落ち着いているこの時期こそ、地域の皆様と協力しあって感染予防策を徹底して進め、医療施設、介護系施設、障害者福祉施設など様々な領域で感染予防を心がけ、クラスターの発生を阻止しなければなりません。病院では、院内感染予防のため、皆様には少しの不自由をおかけしますが、何卒ご協力をお願い申し上げます。

 

庄内の地域医療構想にコロナが与える影響は?

 新型コロナが終息した後のポスト、コロナでは、医療のみならず様々な分野で大きな変革がおこるものと予想されています。一方、庄内の地域医療構想にとって、確実な未来は人口の減少です。庄内地域は幸いにも地域連携の先進地域です。ポストコロナと人口減少の観点から、周辺地域を含めた庄内地域全体の、将来に向けた、最適でかつ持続可能な地域医療提供体制の構築を皆様と考えてゆかなければなりません。


<あとがき>

コロナ禍で記事の掲載が延期となったため、コロナ経験後の思いをメッセージとしていただきインタビューと併せて掲載いたしました。島貫隆夫先生ありがとうございました。
次回は協立病院院長の堀内隆三先生にお話を伺います。
どうぞお楽しみに。

からだ館通信第60号(2020年7月1日号)掲載